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2007年2月 4日 (日)

コラム2

人と比べない生き方が大切なんだ。

今から十四年前、二十七歳の僕はアルコール依存症者の治療施設に入寮していた。Kさんという四十代の元アルコール依存症の男性が施設長だった。

Kさんはかなり節制した生活をしていた。いつも弁当を持参して外食はしなかった。車で遠出をするときは、高速道路は料金がかかるので早めに出かけて一般道を利用していた。穴の開いてほころびたジーンズをいつもはいていた。施設を運営することは経済的にも大変で、同世代の人よりも低所得のようだった。

Kさんの唯一の趣味は釣りで、うきの先が折れたものを接着剤で補修していた。「買った方が早いんじゃないですか」と僕が言うと、「物には命があるんだ。最後まで使い切ってやることが大切だ」とKさんは語った。

僕はとてもみじめな気持ちだった。質素な生活が苦痛だった。それまでは、親がかりだったために経済的な苦労をほとんど知らなかった。

街にはおしゃれな若者たちが歩き人生が楽しそうで、僕と比べてみたときに悲しい気持ちがした。そのことをKさんに話した。

「俺は比べるのは自分の一番どん底だったときと今を比べるんだ。お酒が止まらなくて一文無しになったとき、孤独だったときと比べたら、今は随分と幸福じゃないか。人のお金や着ている服とは比べないで自分の過去と比べてみようよ!」とKさんは言った。

僕はそのときから僕の過去と今を比べるように心がけた。引きこもりで何もできなかったとき、入院して絶望に打ちひしがれていたときに比べたら、今はどんな時でも幸福だ。そう考えると一番辛かった時間がとても大切なものだと思えるようになった。

人と比べて僕が優れていると思い満足しても、それは劣等感の裏返しに過ぎないのかもしれない。その人その人の生き方があり、比べようのない尊さが一人一人にあるのだ、と思う。
人と比べない生き方が大切なんだ、そう思うようになった。

新潟日報「心晴れたり曇ったり」より

月乃光司公式ホームページ

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  • 晩秋の夜の幻
    いろいろな人々とライブした。いろいろな病人と出会った。いろいろな「こわれ者」とセッションした。人生のサンプルが増えるほど、 生きるのが楽になってきた。「人生なんでもあり」にどんどん近づいて行く・・・。 写真をクリックすると大きくなります!